「妖精の宿にて。一方通行のいろいろ」
木々が青々と芽吹いてる。
そよそよとそよぐ風が木々の……マイナスイオン? そういうのとは違うかもしれないけど、瑞々しさとか、清々しい何かを運んで、妖精の宿の裏庭をそっと撫でて通り過ぎた。
妖精さん達が蝶々みたいな羽を伸ばして休憩時間を満喫してる。談笑したり、悪戯しあったり、ただ飛んでるだけだったり。庭の隅っこ、新緑に囲まれて、テーブルに頬杖をついて私はそれを眺めてた。
そうしているとテーブルを挟んで向かいに、身の丈三メートルはありそうな冒険者の人が座った。巨体が影を作って、私を日の光から隠した。人? 怪しいところだけど、他になんていっていいか思いつかないから、とにかく冒険者の人。
その人は、一見すると泥に覆われた巨人だかロボットみたいな外見。間接の継ぎ目だけ、何か金属みたいなもので繋がっていて、ただでさえ威圧感のあるシルエットに不自然なアンバランスさを演出してる。殴られたらただじゃすまないぞって、見ただけでわかる感じ。
って、実際、拳だけで私の腰周りより大きいんだから、殴られたらひとたまりもないんだけど。
ミシッと小さくない音がなった。
椅子が悲鳴を上げてるんだって、すぐにわかった。
ゴーレムさんが、その音に合わせて少し腰を浮かせた。
それ、ほとんど空気椅子なんじゃないかなあと思うんだけど、ゴーレムさんは別段普段と変わった様子もなくって、平然と私の向かいに座ってるだけだった。
ゴーレムさんはなんにも喋らない。
用事がないなら話す必要はない。そういうスタンスみたい。
私も、何か話さなくちゃって思うんだけど、……なんにも思いつかなかったんだよね。
仕方ないから、『こんにちは』って書いた紙だけテーブルに置いた。
ゴーレムさんは一度だけ深く頷いて、それだけだった。
そのまま、私はボーっとしてた。ゴーレムさんは、よくわからない。
だから、勝手に想像する事にした。
ゴーレムさんは、何か気を使ってくれて、向かい側に座ってくれたんだって。
例えば、どうだろ? 一緒の時間を過ごすのも悪くないって思ってくれたとか、人との付き合い方を模索しているとか?
ただの気まぐれかもしれないけど、ゴーレムさんって理屈にあわないことはしない人? だから、なにか理由があるんだと思う。
『ありがとうございます』って紙に書いてみた。
勝手な想像で、一方通行の思い込みにお礼を言うのってどうかと思うけれど。
だから、ゴーレムさんには見せなかったけど。
考えてみたら、人と人との気持ちのあり方って、ほとんど一方通行みたいなものだもん。
勝手に感謝したって、良いよね。
「何故笑っているのですか、牧野瀬悠」
べつにー?
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