「歩行雑草の退治なんて嫌でしょ? 今日も掃除をやっててよ。後で大砲の撃ち方教えてあげるから」
え、それは別に教えてくれなくていい。
ぶんぶんと頭を振ると、ダナは「え、掃除嫌なの?」と驚いてる。
そうじゃなくって、って口に出せればいいのだけど、掃除はするけど大砲はちょっと、なんてジェスチャーで伝えるのはなかなか難しい。いちいちメモを取り出して書くのもちょっとめんどくさいし。
仕方ないから、腕まくりして雑巾を掲げた。周りの人に比べるとずいぶん細い腕をパンパンと叩いて、やる気をアピール。……のつもりなんだけど。
ダナは「?」と首を傾げてる。
ダナはシーエルダー号の船員で、私の友達。はじめてこの船に乗せてもらった時に、意気投合しちゃって、それからちょくちょく一緒にお酒飲んだりお話したりしてたんだ。最近はちょっと、あんな事があったから、合わずに居たけど、アルバイトもシーエルダーのお手伝いもいつまでもあけてられないし、このまま疎遠になってしまうのも嫌だったから、船長さんに頼んで、また手伝わせてもらう事にした。
だから、偽島での私の立場は、南瓜の涙亭のアルバイト兼シーエルダー号見習い船員兼探索者ってこと、になるのかな。船長さんは、気を使って教育係にダナを指名してくれた。船内で女の子ってダナしか居ないし、ダナとなら気兼ねなく働けるし、助かるよね。
バケツに水を汲んで、手すりだとか壁だとかを一通り拭いていく、一通りなんていっても船内は広いし、人も沢山出入りするから全然きりがない。それでも、なんにもしないよりはずっといいから、暇を見てはこうして拭いていく。掃除ってそういうものだよね。
壁とかを拭き終わったら、今度は床掃除。
困ったことに、船内にはモップなんて常備されてないから、雑巾を床において、小学生よろしくよつんばいで駆け回らなくちゃいけない。これが結構重労働で、廊下をひとつ拭き終わる頃には汗だくになっちゃう。
考えてみたら、私はずっと掃除ばかりしてきた気がする。
学生の頃なんていうまでもなくて。
劇団にはいってからは、稽古場と舞台の掃除。
この島に来てからは、南瓜の涙亭とシーエルダー号。
どれもなんか特別な場所。
ふぅ、と一息をついて、雑巾をバケツで洗う。もう水は黒くなってしまっているけど、手にかかった水の涼気がとても気持ちいい。水遊びでもしてるみたいに、ジャブジャブとなる音が心地良くって、なんだか一心不乱に雑巾をこすり合わせた。
掃除をした場所は、特別な場所になる。
一回、二回と続けていくたびに、私はその場所に愛着を持って、そこの一員になれたような気がしてくる。
人の事を沢山知りたいと思うように、その場所のことをもっと知りたいと思う。
いつか、海原を行くシーエルダー号を想像して、その時までに少しでも、この船に何かを残せたらなあって、ちょっと、そう思った。
って、残しちゃダメじゃん、綺麗になってないじゃん。
小さな歩行雑草達が、足元をちょこまかと駆け回っていった。
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