ストローが勢いよくクリームソーダを吸い上げた。
あ、ダメ。あんまり早くのみすぎちゃうと間が持たなくなっちゃう。
クリームソーダがなくなってしまわない様にすこーしずつゆっくりと口に含んだ。アイスクリームの端っこを撫でるように掬いとって、ちびちびなめる。クリームソーダとアイスクリームの境目、味が混ざったみどりいろの境界線が、泡を浮かべながらゆっくりと広がっていった。
味なんて、さっぱりわからない。
正面に座る相澤君の顔が視界に入らないように、そっと目を伏せた。
相澤君はなんか、しきりに窓の外を気にしてて、全然にクリームソーダに手をつけてない。お店にはいってからはずーっと無言。なにこの沈黙って思うけど、私も何を話していいやらさっぱりわからなくて、氷をかき混ぜたり、アイスクリームを突っついてみたり、落ち着かない気持ちを一生懸命抑えながら目の前のクリームソーダと不毛な格闘をしてた。無理に試合を引き伸ばして判定勝ちを狙うボクサーの気分。かも?
「ユウ、今から喫茶店いかない?」
部活が終わって、つかれきった体を抱えて家路に着こうとしたら、相澤君に声をかけられた。
相澤君とは何となく家の方向が一緒だから、帰りが一緒になった時は話をしながら帰ることも多い。同じ演劇部だから、帰りのタイミングなんてほとんど一緒。部活の皆とわいわい話しながら帰るときならともかく、たまに一人で帰るときには、何となく相澤君を待つのが習慣になってた。
「なんで?」
相澤君は紺の学校指定のバッグを重そうに肩かけて、私の返事なんて聞かなかったみたいに歩き出す。
「いい喫茶店を見つけたんだよ」
なんて口にするときも、振り返りもしないで、ずんずんと足を速めた。
「いい喫茶店って、このあたりで? 相澤君、そういうの興味あったっけ?」
早足で追いついて隣に並ぶと、相澤君はやっとこちらを振り向いて、歩く速度を少しだけ緩めてくれる。
「別に、たまたまだよ」
殊更いつもと同じように振舞ってるけど、相沢君の動きはちょっと硬い。さっきからバッグの紐をぎゅって握ってるし、こっちを見てもすぐに目をそらして、正面をにらみつけるように真直ぐ前を見る。
なんだろ? って、ごめん。その時は本当になんにも思わなかったんだ。
何となく促されるままに窓際の席に座って、二人でクリームソーダを頼むと、途端に相澤君はそわそわしはじめた。私も何となく、これってデートみたいだとか思ってしまって、何かいいかけては言葉を飲み込んだ。
「台本が欲しいね」
って、うっかり口を滑らせてしまったら、相沢君も「うん」とか頷いちゃって。
お互いに「あ」なんて、一瞬目を合わせた。
窓の外を、制服の人たちが通り過ぎるたびに、相澤君は一瞬体をこわばらせる。私も、どうか知ってる人が通りませんように。ってちょっとだけ思いながら、そんな相澤君をぼうっと見つめてた。
店内には、ラジオのお姉さんが話す交通渋滞の情報が流れてて、
車になんて乗らないのに「今、国道混んでるんだね」とか「高速乗ったほうが効率いいかもな」なんて、場繋ぎのためだけに言葉にしあった。
クリームソーダを飲み終わると、相澤君が「行くか」と立ち上がった。相沢君のクリームソーダはとっくに解けて混ざり合って、メロンソーダなのかアイスクリームなのか、よくわからないものすごく甘そうな飲み物に様変わりしてた。
「美味かった」
相澤君が取ってつけたように感想を言う。
「全然飲んでないじゃん」
指摘すると
「次来たら全部飲むよ」
って、さらっと。
「そっか」
だから、何となくふーんって、そうだねって、私は頷いた。
あれ? 遠まわしに誘われたのかな? って気がついたのは家に帰ってから。
……布団に顔をうずめて、
そこは、「そっか」じゃないだろ私! って、すっごくじたばたした。
ぎゃー。
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