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【2024/04/29 10:44 】 |
BBT 10/28日分 SS
 10月28日にビーストバインドトリニティを遊んできました。
 TRPGを遊んだ後は、お礼をかねてシーンをSS風にしてMIXIにアップしたり配ったりしていたんですけど、久しぶりにそれをやってみようかなと筆を執ってみたわけです。
 今回は前日譚。 
 本当は、一緒に遊んだPLさんたちと関わったシーンを書きたかったのだけど、SSにするだけのプロットが思いつかなくって……ほぼ、自キャラ語りになっちゃっています。
 まあ、せっかく書いたのだし、作ってからずっと放置状態になっちゃっているここに置いておこうかなと。
 これからもちょくちょくおいていければいいのだけど。



「身の上話」

 徘徊する幽霊、散堂歩の場合。


 与えられた個室から眺める空に、特別に惹かれるものがあったわけではない。部屋の中に見るものがなかったから、窓の外に目を向けるしかなかっただけだ。ベッドの位置は空以外を見えるほど窓に近いわけではなかったし、高くない。
 病室。ベッドのそばのタンスには私が日々生活するための最低限の着替えや生理用品が置かれている。本や暇つぶしの類はもうとっくの昔に使い切ってしまっていた。テレビの類は置いてない。だから、時折身じろぎする私の体がたてるシーツの音以外は、この部屋は全くの無音だ。
 もう何年も、医者や看護師以外とは言葉を交わしていない。だから、私をここに放り込んだ両親が、今どうしているのか、何も知らなかった。そしてこの環境はこのまま私が死ぬまで続くのだろうと確信していた。
 窓の外を鳥が横切った。種類はわからないが、よく見る鳥だ。自由に空を飛ぶ鳥を羨ましいと思うことも、もうなくなった。彼、彼女かもしれないが、彼はよく見る。きっとこのすぐそばに巣があるのだろう。なんのことはない、自由に飛び回っているように見えて、彼もこの病院に縛られているのだ。だから、羨ましくない。
 その彼がふと哀れむように私を見たような気がした。そして、ふいと顔を背けて、飛び立っていってしまう。
 それからどのくらい時間が過ぎているのかまったく経っていないのか、ふいにかちゃりと扉が開いた。
 この病室での時間がようやく終わるのだなと、私はかすかに期待した。
 ほとんどを病室で過ごした無駄な人生だった。


 ふいに訪れた白昼夢に私は思わず頭を押さえた。
 懐かしいような、懐かしくないような。遠い昔のことのような、昨日のことのような。
 そんなことは珍しいことだったから、今のはなんだったのだろうと首を振る。夢にしては実感がこもっていたけれど、あいにく、私は生きていた頃の事なんてほとんど覚えてはいない。半透明の体を使って、ほとんど重さのないキャリーバッグをからからと引きずっていく。もちろんバッグも半透明、どこからどこまでが私なのか、そんなことは考えるのも無駄なことだ。キャリーバッグを握るその触感を確かめて、これまで何度かやってきたように、歩きながらそばの塀に手を当ててみる。
 すっと音がしそうなほどにすんなりと、私の手は塀をすり抜けた。手首が中程まで壁に埋まってしまっている。人間が水の中でそうするように、私は埋めた左手を塀の中で泳がせた。その間も、足は止まらない。
 触れたものがすべて透き通ってしまう私が、自分の足で歩き回るのもおかしな話で、世に言うように、足だけは溶けて消えてしまって、ふわふわと漂うのが私のような存在の正しいあり方のような気はするのだけど、どういう理由か私にはしっかり足が生えていて、それだけじゃなく、ご丁寧にキャリーバッグと麦わら帽子、どこぞの令嬢が避暑地にでも赴くようなワンピースまで与えられていた。おかげで、全然それらしい感じがしない。さっき見た夢のあの病室の少女が、想像の中で旅行にでも出掛けるならこんな格好をするだろうなと、そんなことを思った。
 だとしたら、さっきの夢は私に関係あることなのかもしれない。
 もっとも、関係があろうとなかろうと、今の私には無意味なことだ。
 住宅街のはずれ。まだ早い時間だというのに人々がそれぞれの家から出てきて、「おはよう」と挨拶を交わしていた。目を細めて、その光景をまぶしく思いながら、私も小さく「おはようございます」とつぶやいた。
 誰にも届かない、朝の挨拶。
 誰にも見えない、私の体。
 幽霊になってからどのくらい経つのか。この体には、時間の感覚なんていうものは残されていないようだった。

 
 どうして自分が幽霊になったのか、私はどんな未練を抱えて死んだのか、それも覚えていない。
 もし、幽霊が、未練を持ったまま死んだ生物の成れの果てだとするのなら、その未練を当の私が覚えていないのは、何とも間抜けな話だと思う。
 目的も希望も持たないまま幽霊として世界に放り出された私は、だからとりあえず歩くことにした。目的地も動機もない、ただ歩くというだけの生活。不毛だとは思うが、それしかできることがないのだからしょうがない。
 商店街にさしかかった時、家電量販店の街頭テレビで、バラエティ番組の司会者が訳知り顔で頷いていた。「自分探しっていう感じですかね」と合いの手を打つコメンテーターに、まさにそれだなと小さく微笑した。


 歩いて歩いて、歩き続けた。
 この体は疲れを知らない、私は歩くその目的を知らない。ほとんど自動的といってような感覚で歩く速度で変わる風景を、ただ見続けていく。
 思い出すのは、あの白昼夢。
 あの少女と、今の私と、どちらの方が幸せなのだろうかと、そんなことを考える。
 いつか来る死が約束されているだけ、彼女の方が幸せなのか、好きなところを自由に出歩ける私の方が幸せなのか。どっちもどっちだろう。
 つまらないことを考えながら、そのときの私は道といえるのかもわからない参道を目的なく歩いていた。考え事をしていたせいか、いつのまにか山奥の小さな村にさしかかっていたことに気がつかなかった。
 こんなところに村が? と疑問に思いながらも、足を踏み入れる。
 隠れ里とでも呼べそうな雰囲気。藁葺き屋根の家々。十世帯あるかないかといったところだろうか、人の気配がほとんど感じられない。
 そのかわり、たくさんの狸がひなたぼっこをしていたり、食べ物を融通しあったりしていた。人間がほとんどいないことをのぞけば、牧歌的と言っていい風景だ。
 歩いていると、年の頃七、八歳くらいだろう少年が村の一番奥の、この村にしては比較的大きな家から走り出してきた。嬉しそうに自分の体を眺めて、歓声をあげている。
 家の奥から、ひとりの老婆が「やっと成功しましたね」と満足げに頷いた。
 少年はひとしきり走り回ったあと、奥の家にかけこんでいく。
 その少年のあとを追うと、ほとんど間を開けずに今度は家から仔狸が駆けだしてくる。仔狸は村の入り口のあたりまで一目散に走って、大声で叫んだ。
「僕もやっと化けられるようになったよ!」
 日本語だった。
 唖然と見送った私は、もう一度家の方に目を向けた。老狸が満足そうに笑みを浮かべて悠々と表に出てくる。
 そこで、あらためて村を見回してみた。
 数少ない人間を、まじまじと見つめてみる。
 それと知って観察してみれば、すぐにわかった。ある青年は、耳の上にふさふさしたもう一つの耳が。ある女性にはお知りの後ろに変化の名残だろう尻尾の膨らみが残っている。
 自分が見ているものになかば呆れながら、私は心中酷く納得していた。
 化け狸の村。
 幽霊なんてものがいるのだから、そういう場所があったっておかしくない。自分に言い聞かせて、私はこの世にも珍しい村をぽかんと見つめているだけだった。

 先ほどの仔狸が、村人? 狸たちへの報告を終えたのだろう、意気揚々と戻ってくる。私の足元のすぐ近くを通り過ぎようとしたから、私はいつもそうしているように、ふと声をかけてみた。
「おめでとう。いい日和ね」
 誰にも聞こえない私の声。
 誰にも見えない私の姿。
 返事を期待したわけではない。ただ、仔狸があまりにも嬉しそうだったから、少しだけ祝福したくなっただけだ。
「うん!」
 だから、戻ってきた返事が、私に向けたものだと、最初は気づけなかった。
 私に向かって、声をかけてくる人なんて、これまでいなかった。死んでいる今も、生きているときも。
 仔狸は元気に声を上げてから、きょろきょろと辺りを見回した。返事をしたものの、誰から声をかけられたのかわからなかったらしい。首を傾げながら、「雨が降る前に戻らなくちゃ」とつぶやいて、また走りだそうとする。
 空を見上げた。
 歩きながら、あるいはいつかの病室で、ずっと見上げていた空。
 今は曇っているけれど、風の流れが早い。何度となく見てきた空だ。ちょっとした天気の予報くらいならできた。
「大丈夫、今日はきっと晴れるよ」
 あなたにとってはいい日だもの。
 晴れるに決まってるわ。
 仔狸は不思議そうに辺りを見回している。
 仔狸は少しの間、何かを考えるようにうつむいて、それから、ぱっと顔を上げて笑顔を作った。
 ずっと見ていたいなと思う笑顔だった。
 それから、勢いよく駆け出すと、四本足からおもむろに立ち上がって、二本足に。人間がそうするように走り出す。体を覆う体毛が動きやすそうな服に代わっていった。数メートルもすれば、走っているのはあの少年だ。
 彼は嬉しそうに村中に聞こえるように声を張り上げた。

「ねえ、今日は晴れるって! みんな出ておいでよ! 神様がそう言ったんだ!」

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【2012/11/01 14:03 】 | 雑記 trpgメモ | 有り難いご意見(0)
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