高校を卒業したら、私は都内の劇団員の研究生なることが決まっていた。
中学生の時に、ユウ君と一緒に、そうなろうって決めた道を、今は一人で歩いてる。
私はそれを内心誇りにも思っていたし、憤ってもいた。
どうして一緒に頑張ってくれないの? ってなじりもした。
でも、ユウ君はさっさと演劇の道を諦めて、大学進学を決めてしまっていた。
次第に私たちは、話さなくなっていった。
中学の3年間と、高校の2年間積み上げてきた関係は、最後の一年間であっさりと疎遠になってしまっていた。
教室を出て、卒業証書を抱えたまま校門への道を下る。
余計な荷物は前日までに全て家に持って帰っていたから、手荷物ときたら実感のわかない卒業証書と、野暮ったい制服だけ。
校門にはすでに在校生と卒業生がたまっていた。
第二ボタンを渡したり渡されたり、別れを惜しむ声の中を、自分は関係ありませんって顔で歩く。
友達とはもう挨拶を済ませたし、これでお別れってわけじゃないって言い聞かせて、この感慨のなさはなんなんだろうって。自分の薄情さに胸が痛んだりした。
すぐ前を、ユウ君が歩いていた。
声をかけようかって迷った。
疎遠になったこととか何にも関係なかったみたいに、「卒業おめでとう!」って肩を叩いて笑いかけたら、この一年間の事なんて何にもなかったみたいに笑い返してくれるんじゃないかって、期待したりもした。
少しの間、ユウ君の後姿だけを追った。気づかれないように、10mくらい距離を開けて、「振り返りませんように」「振り返って私に気がつかないかな」って祈った。
「先輩、俺……」
唐突に、声をかけられて我に返った。
振り向くと、演劇部の後輩が顔を赤くして私を見ていた。
「なに?」
答えながら、ちらとユウ君を見ると、ユウ君がこちらを見ていた。
少しの間目が会うと、ユウ君は何事もなかったみたいに歩き出した。無視と目礼の、ちょうど境目みたいなしぐさだった。
その後後輩と何を話したのか、よく覚えてない。
ただ、ごめんねって言ったことだけは確かだと思う。
「……もしかしたら、私はね、ふって欲しかったんだ。形にならない人間関係にけじめをつけて、ちゃんと卒業したかったんだ」
何となく口にすると、後輩は今にも泣き出しそうな顔で
「なに言ってるのかわかんないっすよ」
と苦笑した。
ごめん、私もよくわかんない。
家に着いたら、無性に髪が切りたくなった。
こんな事に意味があるのかわからないけど、体の一部を何度も何度も切り離したら、誰かが、もうこれでお終いっていってくれるんじゃないかって気がした。
ハサミがジョキンと音を立てるたびに、これまでの私が居なくなっていくような気がした。
それでやっと泣けた。
高校生活の終わりと、間延びしたままの私の初恋。
画像はEno536 土蜘蛛さんに書いていただいたものです。すごくよかったから使おう使おうと思ってた!
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